第4版の頃のトレード事情

部屋を整理していたら懐かしい日記が出てきたよ。そこには第4版が出て間もないころ、ある大会でトレードをした記録が書かれていたんだ。あの頃は日本語版がない上に、インターネットでの情報収集もできなかったからね。レアリティさえ分からない混沌とした状況の中で、本当に自分が使いたいカードをトレードする、というある意味正しいトレード環境だった。この日記を頼りに当時の記憶を呼び覚まして紹介しよう。今回登場する第4版のカードについては、一部以前話題に出ていた覚えがあるから、思い出しながら聞いてほしい。


初参加の大会にて

その日、私はマジックの大会に初参加し、友人以外とトレードするのは初めてだった。その頃私はメインの赤緑デッキと、サブの青黒デッキを使っていた。もっとも、デッキのアーキタイプという概念さえなく、適当に強そうなカードや使ってみたいカードを突っ込んだだけの、今から思えば紙の束だ。私が試合開始前に会場でカード整理をしていた時、一人の見知らぬ男が近づいてきてこう言った。「良かったら君のカードを見せてくれないか?カードを交換しよう」

デッキを強化するためには新しいカードが必要だと考えていた私は、戸惑いながらもその申し出を受け入れた。カードファイルも持っていなかったため、その若い男は私のカードボックスのカードを端から見だした。一方で私は男のカードファイルを見る。初めて見るカードが多くてね、ワクワクしたものさ。当時の私は知らないカードのイラストを見るだけでも新鮮で楽しい、といった純真無垢な少年だったんだ。

私が物珍しげに彼のカードを眺めている間に、その男は私の数百枚のカードをあっという間に見終え、その中から何枚かのカードをピックアップしていた。「俺が欲しいのはこのカード達だ。この中でトレード出来ないものはあるかい?」男はそう言うと、私の前に数枚のカードを並べた。その箱には今デッキに入れていないカードだけが入っていたので、出せないカードはないと答える。彼は満足げに欲しいカードを選んでくれ、と言った。まだ中学生だった私は英語を訳すのも一苦労で、強いクリーチャーが欲しい、とか、面白いカードを使ってみたい、とか曖昧な希望を伝えた。


初トレード、始まる!

ハルマゲドン男「まず俺が欲しいのはこの"Armageddon"だ」
私「ああ、白は使ってないから別にいいよ。それって強いの?
男「自分の土地も壊れてしまうからね。はっきり言って使いにくいカードだね」
私「じゃあなんでそんなカードが欲しいのさ?」
男「友達が黒緑の"Kormus Bell""Living Lands"のデッキを使っているから、その対策にと思ってね」
私「それってどんなデッキなの?スゴイの?
男「ああ。自分の土地を1/1のクリーチャーに変えて殴ってくるという強烈なデッキなんだ。"Kormus Bell"は”沼”を、"Living Lands"は”森”をクリーチャーに変えてしまうというぶっ飛んだレアカードなんだ」
私「そりゃあ、スゴイね!」

Kormus Bell“コーマスの鐘/Kormus Bell”
(4)
アーティファクト
すべての沼(Swamp)は黒の1/1のクリーチャーである。それは土地でもある。




Living Land“生きている大地/Living Lands”
(3)(緑)
エンチャント
すべての森(Forest)は1/1のクリーチャーである。それは土地でもある。




男「ああ。だから俺は”Armageddon”のようなカードが必要なんだよ」
私「なるほど、分かったよ。えっと、代わりに何をもらおうかな・・・」
男「じゃあ、君の赤緑デッキにピッタリな、この"Hurr Jackal"はどうだい?」
私「えー、1マナ1/1かあ。弱そうだな」
男「確かにそうかもしれない。でもコイツは中々役に立つ能力を持っている」
私「どんな能力なの?」
男「君はregenerate(再生)持ちクリーチャーに苦しめられたことはないかい?」
私「ああ、あるある。友達の"Will-o'-the-Wisp(黒1マナ、飛行、再生の0/1。レア)"に、僕の"Craw Wurm(4緑緑、6/4バニラ、コモン)"が止められちゃうんだ。赤緑だとどうにもできないんだよね」
男「そんな時、この"Hurr Jackal"が活躍する。コイツはタップだけで対象クリーチャーの再生を禁止させられる!」
私「おお、スゴイ!」


あのアラビアン・ナイトのカードをもらえた!

Hurr Jackal“Hurr Jackal/ハール・ジャッカル”
(赤)
クリーチャー 猟犬
(T):クリーチャー1体を対象とする。このターン、それは再生できない。
1/1

男「しかもコイツはあのアラビアン・ナイト出身の再録カードなんだ」
私「アラビアン・ナイト?名前は聞いたことあるよ。昔のセットだよね?」
男「そう。あまりにも強力なカードが数多く収録されているため、今では入手困難で1パック買うだけでも1万円以上(当時)もするという、あのアラビアン・ナイトだ」
私「そうなんだ!スゴイ!」
男「"Hurr Jackal"はコモンのレアリティで収録されたのだが、強すぎたせいで第4版ではレアカードとして昇格再録させられた」
私「えぇ!そんなカードをくれるの?」
男「ああ。俺のデッキには他に再生対策があるからね」
私「嬉しい、やった!」


サバンナライオン男「そうか。じゃあこの"Hurr Jackal"は君の物だ!」
私「ありがとう!」
男「次はこの"Savannah Lions"が欲しいんだけど」
私「え、そんな何の能力もないクリーチャー、さっきのおまけにあげるよ!」
男「いやいや、それは悪いから、もう一枚"Hurr Jackal"を付けるよ」
私「え、やった!ありがとう!お兄さんいい人だね!」
男「1枚だけじゃ引けないと困るだろうからね」



緑では珍しいあの能力を持ったカードをゲット!

神の怒り男「さて、次に俺が欲しいのはこの"Wrath of god"だ」
私「あー、それかあ」
男「クリーチャーを全滅させられるカードだけど・・・確か白は使っていないんだよね?」
私「うん。自分のクリーチャーが一緒に死んじゃうなんて、まっぴらだよ」
男「これを使えばクリーチャーになった土地をまるごと始末できるからね。俺には必要なんだ」
私「ああ、確かに"Armageddon"だけだと不安だよね。いいタイミングで引けないと駄目だから」
男「そうなんだ。だからこのカードをトレードしてほしい」
私「いいけど今度は何をもらおうかな」
男「緑のクリーチャーなら、この"Timber Wolves"はどうかな?」
私「また1マナ1/1かあ。しかも能力がBanding(バンド)だけじゃん」
男「ところで、緑のBandingクリーチャーって見たことあるかい?」
私「そういえば初めて見たね。今まで見たのはみんな白かった」
男「そう。なぜだか分かるかい?」

Timber Wolves“森林狼/Timber Wolves”
(緑)
クリーチャー 狼
バンド
1/1

私「うーん、分からないや」
男「緑にBandingは強すぎるから、さ」
私「え、そうなの!?」
男「そう。だからコイツはレアなんだ」
私「そっか。緑のパワフルなクリーチャーがBandingで攻めて来たら、確かに強いもんね!」
男「ああ、そうさ。君の"Craw Wurm"と一緒に攻めてどんなに強い相手にブロックされても、Wurmは死なないね。しかもそれが赤緑デッキで実現できるんだ」
私「分かったよ!"Wrath of God"と交換しよう」
男「ありがとう」
私「これで僕のデッキは強化されたね!」
男「ああ、もちろんさ」


ついに登場!最強クリーチャー!

Nevinyrral's Disk私「ねえ、次は?次は?
男「ははは、そう慌てなくていいよ。次は"Nevinyrral's Disk"が欲しいんだ」
私「確かそれも僕のクリーチャーが死んじゃうんだよね」
男「そう。しかも、エンチャントやアーティファクトも破壊される」
私「あ、分かった!"Kormus Bell""Living Lands"も一緒に壊そうって魂胆だね!」
男「察しがいいなあ。君は将来きっと強いデュエリストになるね」
私「そうかな、えへへ」
男「そんな君に、このカードを紹介しよう」
私「す、スゴイ!10/10だっ!」
男「そう。これが最強クリーチャーの"Leviathan"だ!」

eviathan
“リバイアサン/Leviathan”
(5)(青)(青)(青)(青)
クリーチャー リバイアサン
トランプル
リバイアサンはタップ状態で戦場に出、あなたのアンタップ・ステップにアンタップしない。
あなたのアップキープの開始時に、島を2つ生け贄に捧げてもよい。そうした場合、リバイアサンをアンタップする。
リバイアサンは、あなたが島を2つ生け贄に捧げないかぎり、攻撃できない。
10/10

私「Trumpleまで持ってる!凄すぎ!絶対欲しい!
男「サブの青黒デッキがメインになってしまうかもしれないね」
私「うん、そうするよ!」
男「おまけにこのカードも付けよう」
私「なんだか気味の悪い絵だね。これは?」
男「この"Deathlace"があればたった1マナで"Leviathan""Terror(1黒、インスタント、黒でないクリーチャーを破壊。コモン)"から守れるぞ」
私「そうなんだ。やった!

Deathlace“死の色/Deathlace”
(黒)
インスタント
呪文1つかパーマネント1つを対象とする。その色は黒になる。





手ごわいアーティファクト対策も入手!

triskelion十字軍

男「俺はもうこれで十分だが、何かあるかい?」
私「え、もっとトレードしたい!実は青黒デッキのアーティファクト対策が何かないか探してるんだ」
男「ああ、そうか。確かに青黒デッキはアーティファクトが対策しづらいね」
私「そうなんだよ。弟のトリ・・・トリス・・・ええと」
男「ああ、"Triskelion"か。アレは中々強いからね。それならコイツを使うといい」
私「何?この伸びた金貨みたいなカードは?」
男「これは"Warp Artifact"というアーティファクトに着けるエンチャントだ」
私「ふうん、付けるとどうなるの?」
男「アーティファクトの持ち主が、毎アップキープに1点食らう」
私「ダメージを与えられるんだ!破壊するよりスゴイかも!」
男「ああ、そうさ
私「これがあれば"Triskelion"を出させたことを後悔させられる!」
男「うん。じゃあこのマナコストが似ている"Crusade"と交換しようか」
私「そうだね、エンチャント同士でもあるし」
Warp Artifact”Warp Artifact/歪んだ秘宝”
(黒)(黒)
エンチャント オーラ
エンチャント(アーティファクト)
エンチャントされているアーティファクトのコントローラーのアップキープの開始時に、歪んだ秘宝はそのプレイヤーに1点のダメージを与える。



こうして私は赤緑デッキでの大会参加を急遽変更し、青黒デッキで大会に臨んだ。結果は・・・まあ、推して知るべし、だ。マジックの奥深さ、トレードの世界の厳しさ、カードの強さとは何か・・・。様々なことを学んだ素晴らしい機会だった。今の君たちはネットで最新の情報を簡単に入手できて・・・ちくしょうめ!!!
念のため付け加えておくが、これらのトレードは全てレアカード同士のトレードであり、その点では公正なトレードだったといえるだろう。