この私、トリ助・リオンがマジックを始めたころ、良く剥いていたパックはフォールン・エンパイアとういセットだった。当時の私はカードセットだとかレアリティだとかは気にせず、とにかくパックを買って面白そうなカードがあれば使う、という純粋無垢な楽しみ方をしていたものだよ。インターネットもシングルカードショップもなく、どのカードが強くて高額なのか、なんて興味すらなかったさ。まあ、フォールン・エンパイアに関してはそんな事を気にする必要がなかったのだがね。強いカードが軒並みコモン、という当時の私のような学生に優しいセットだったんだ。

サーペイディア帝国の衰退をモチーフとしたセットで、雰囲気は全体的に暗い感じだったね。今からでは考えられないくらいゆっくりとした環境で、カードパワーも軒並み低い。パワーが4以上のクリーチャーはほとんど存在せず、パワー0のクリーチャーがごろごろしていたよ。普通の赤い火力や黒定番のクリーチャー除去は存在していない。ないのはクリーチャー除去だけでなく、土地、アーティファクト、エンチャントも通常の除去カードがない。普通の打消しやドロースペルもない。さらに8枚入りの変則レアリティだった。今とは何から何まで違う、古いセットらしい構成だったね。

フォールン・エンパイアといえば黒!

フォールン・エンパイアを代表する色と言えば、何といっても黒だろう。たった2マナでランダムに2枚の手札を捨てさせる<Hymn to Tourach>という凶悪カードが存在していた。先攻で<暗黒の儀式>から打たれて、手札の土地2枚が落ちるとそのまま試合終了、ということが良くあったものだ。<ネクロポーテンス>を主軸としたネクロディスクをはじめとした様々な黒いデッキに投入され、ウィニーであっても土地2枚スタートが不安になる環境を作り出してしまう。最終的にはスタンダード、当時はタイプ2といったがね、そこで1枚制限カードとしてその地位を不動のものとしたんだ。折角絵柄が4種類もあるのに、1枚しかデッキに入れられなくなってしまった。

Hymn to Tourach全部同じカードだ

余談だが、当時のスタンダードにはまだ1枚制限カードというのがあって、<黒の万力><象牙の塔>といったパワフルなカードが1枚だけデッキ投入可能だった。<天秤>という1枚制限カード同士のコンボ、なんていうのもあった。カードパワーが軒並み低いフォールン・エンパイアにあって、この<Hymn to Tourach>がいかに頑張ったカードか分かってくれたかな。こんなカードがコモンとして収録されてしまうあたりが、古いセットらしいといえるね。

Order of the Ebon Handフォールン・エンパイアの黒いカードで、もう一つ忘れてはいけないのが<Order of the Ebon Hand>というウィニー・クリーチャーだ。プロテクション(白)、黒マナ1つで先制攻撃、黒マナ2つでパワー+1、という3つも能力があって2マナ、というのはかなりのやり手だ。後に<ストロームガルドの騎士>という同じ能力を持った後輩がアイスエイジで登場している。しかし、先輩はコモンでだが後輩はアンコモンだった。<黒騎士>とともに、やはりネクロディスクなどで活躍した。



ネクロをも葬った白

Order of Leitburこの<Order of the Ebon Hand>と対をなすように、白には<Order of Leitbur>というクリーチャーがいた。起動マナの色が白くなり、プロテクションが黒に変わっただけのカードだ。既に白にはウィニーデッキがアーキタイプとして確立していたので、こいつも黒いライバルと引けを取らないくらい活躍していたね。当時猛威を振るったネクロディスクを破り、世界大会で優勝したのはこの<Order of Leitbur>が入った白単色ウィニーデッキだった。こいつが入ったデッキは私も良く使ったよ。しかし当時の私は<ハルマゲドン>との相性の悪さに気付かず、両方フル投入していたものさ。

そうそう、白には思い出深いクリーチャーがいるなあ。決して強いカードではなかったが、当時私が好きだったカードとしてというクリーチャーがいた。ご覧の通り、ヒゲデッキには必須の一枚だ。

Hand of Justice

Hand of Justice
(5)(白)
クリーチャー — アバター
(T),あなたがコントロールするアンタップ状態の白のクリーチャーを3体タップする:クリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
2/6


初心者だった私のデュエルは長期化することが多くて、こうした恒久除去はこう着状態を打破するパワーをもったカードとして重宝したものだよ。<神の怒り><地震>といったマス・デストラクションは100枚もあるデッキに1枚しか入っていなかったからね。とにかくクリーチャーが良く並ぶんだ。今見ると能力が起動できるか怪しいものだし、そんなにクリーチャーが並んでいるなら殴った方が早い、とさえ思ってしまうね。最初は持っていなくて、友人にトレードを持ちかけても「強いからだめ」と言われトレードしてもらえなかったのを覚えているよ。自分で引き当てて、最初に使ったときは、そりゃもう嬉しかったさ。ちなみにこのカードはイマイチな性能だけあってアンコモン1というレアリティで、今でいうレアに相当するカードだった。


ゴブリンデッキを成立させた赤

ゴブリンの手投げ弾フォールン・エンパイアの赤といえば、後に再録もされた<ゴブリンの手投げ弾>が有名だ。生贄にゴブリンが必要だが、たった1マナで5点火力という性能は素晴らしい。ゴブリンデッキがトーナメントレベルになる原動力だった。ただし、フォールン・エンパイアにはオークやドワーフに枠を取られてゴブリンが少ない。それはともかく、<稲妻><火炎破>と一緒に使えたのだから、当時のゴブリンデッキはクリーチャーの性能ではなく、こうしたスペルの性能で成り立っていたといえるね。そしてこのカードも例に漏れずコモンだ。


オーグ他には<オーグ>というコストパフォーマンスの高いクリーチャーが活躍した。こいつはアンコモン1で活躍した数少ないカードだ。5マナで6/6という性能の割に軽微なデメリットだったので、ステロイドなどで採用されていたね。アイスエイジ<オークの木こり/Orcish Lumberjack><ほくちの壁/Tinder Wall>から高速でキャストされて困った経験があるよ。第5版に再録され、さらにタイムシフトカードとしても復活しているね。しかし未だにこのクリーチャー・タイプのオーグっていうのが何だか良く分からない。



High Tide時期がずれて活躍した青

フォールン・エンパイアの発売時期の青は正直パッとしなかったのだが、後になって<High Tide>というカードが主軸に据えられたデッキが誕生した。1ターンだけ島が追加の青マナを生み出す、という青らしくないマナ加速カードだった。キャストが成功すると土地をアンタップできるウルザズレガシーのカードを多く組み込み、どんどんマナを増やしていく、というコンボデッキで、その名もハイ・タイド。カード名がそのままデッキ名になるほどの出世をしたんだよ。が、これもコモンカードなんだ。


一応、その他

Aeolipileフォールン・エンパイアの緑について話すことは何もないので、アーティファクトについて話そう。アーティファクトで唯一活躍したのが<Aeolipile>という火力カードだ。キャストが2マナ、軌道に1マナで2点なので効率は決して良くないが、とりあえずどんな色でも採用できた火力である点と、当時はプロテクション(白)や(黒)が大量に出回っていたので、この無色のダメージ源が活躍できる土壌があったんだ。そして驚くべきことにこのカードはコモンでない。この能力でレア相当のアンコモン1だった。


フォールン・エンパイアの末路は、弱すぎた故に売れ残り、スタンダード落ちしてからも様々なショップで投げ売りされ続けていた不遇なセットとなった。ん、なぜ緑について話しをしなかったのかって?ああ、それはフォールン・エンパイアの緑がどうしようもなく弱いのと、それに私がキノコが好きではないからね。あそこには胞子カウンターを乗せるカードしかないから、見るのも嫌なのさ。