今回、このトリ助・リオンが紹介するのは、クロニクルというちょっと変わったセットだ。このセット基本セット第4版の拡張セットという位置づけで発売されたため、第4版の使用可能なレギュレーションで使用可能だったんだ。全てのカードがアラビアン・ナイトからザ・ダークまでの再録カードだけで構成されていて、基本セットの再録カードとは違って各エキスパンション・シンボルがそのまま印刷されていた。ブースター封入枚数は12枚、レアリティも変則という、今から考えると何から何まで変わったセットだ。では早速、このカードから紹介しようか。
時代に愛された緑のナイス・ガイ
(3)(緑)
クリーチャー — ジン(Djinn)
あなたのアップキープの開始時に、対戦相手1人がコントロールする壁でないクリーチャー1体を対象とする。それはあなたの次のアップキープまで、森渡りを得る。
4/5
クロニクルで最も活躍したカードは、アラビアン・ナイト出身の"アーナム・ジン"だろう。仲良くアスレチックで遊んでいるマッチョな二人組が印象的な、緑のクリーチャーだ。4マナ4/5というなかなかのコストパフォーマンスに、ちょっとしたデメリットが書いてある。緑を使ったデッキではちょっと困る、相手クリーチャーに森渡りを与えてしまうというものだ。しかし、実態はほとんど問題にならなかったんだよ。
森渡りをつけるデメリットは、”森”をコントロールしていなければ関係ないだろう?その発想で作られたデッキがアーニーゲドンだね。"アーナム・ジン"のいる状況で"ハルマゲドン"を打ちデメリットを打ち消す、というコンセプトだ。それ以外にも、マナ・クリーチャーやペインランドを多用しデッキに”森”を入れないタイプもあった。ミラーマッチでは"極楽鳥"のようなマナ・クリーチャーを対象にしてしまえば良かったし、呪文や能力の多少になると死ぬ、というクリーチャーに対しては、何とメリットとして機能してしまったんだ。
ここで当時の同マナ域の緑クリーチャーと比較してみよう。"ウォー・マンモス"が3/3トランプル、"大蜘蛛"が2/4到達、同じパワーとタフネスを持つ"人喰い植物"は残念ながら防衛持ちだ。5マナを見ても"鉄の根の樹人族"が3/5バニラで、"ダークウッドの猪"が4/4トランプル。そんな中こいつは明らかに優秀だったね。回避能力も除去耐性もないながら、ほとんどの緑を使ったデッキで4枚採用されると言っていいレベルだったよ。まさに当時の環境の基準クリーチャーだったといえるね。
ちなみにこいつはアンコモン3というレアリティで、今のアンコモンに相当すると思ってくれ。数年後にジャッジメントというセットで再録されるのだが、その時は過去の実績が認められてかレアに昇格を果たした。が、時の流れは残酷でね、あれほど猛威を振るった"アーナム・ジン"は、スタンダードでお目にかかる機会は全くなかったんだ。クリーチャーの質が向上していて、回避能力も除去耐性もない4マナ4/5はお呼びじゃなかった、というわけさ。あの時は寂しかったものだよ。
多色デッキのマナ基盤を支えた特殊地形
土地
真鍮の都がタップ状態になるたび、それはあなたに1点のダメージを与える。
(T):あなたのマナ・プールに、好きな色のマナ1点を加える。
クロニクルを代表するカードのもう一枚は、こちらもやはりアラビアン・ナイト出身の"真鍮の都"だ。記念すべきマジック界最初の5色ランドだよ。ニクスへの旅で登場した"マナの合流点"のご先祖様だね。アイスエイジのペインランドの元になったカードともいえるだろう。ペインランドには敵対色の組み合わせが存在していなかったから、敵対色デッキを組む場合は2色でもこのカードが使われることがあったね。
"真鍮の都"が本格的に活躍したのは、ビジョンズが発売され5CGや5CBと呼ばれる5色デッキが登場してからだ。"知られざる楽園"というもう一つの強力5色ランドが登場したことにより、5色デッキが安定運用可能となったわけだ。それまでは有効色の2色デッキが主流で、3色以上は少なかったため大活躍、とまではいかなかった。5CGや5CBが実績を残してからは多色デッキの要として様々なデッキで見かけることになる。以後5色土地の基本的なカードという位置づけを獲得し、その後長く基本セットに再録されるようになった息の長いカードだ。
クロニクルを飾ったカードたち
これ以外に活躍したカードをいくつか紹介しよう。
"血染めの月/Blood Moon"
(2)(赤)
エンチャント
基本でない土地は山である。
特殊地形対策カードの走りとして有名な"血染めの月"は、ザ・ダークからの再録だ。特殊地形の多い5CGのようなデッキにはよく効いたが、何といってもカウンター・ポストに対してはデッキコンセプトを脅かす能力を持っている。多くの白いデッキでエンチャントを壊す"解呪"は必須だったね。
(1)(赤)(赤)
ワールド・エンチャント
カードを1枚捨てる:プレイヤー1人を対象とする。捨てたカードが土地カードである場合、大地の刃はそのプレイヤーに2点のダメージを与える。この能力は、どのプレイヤーも起動してよい。
レジェンド初出の、今は亡きエンチャント(ワールド)と印刷されたカードだ。今はワールド・エンチャントという呼び方らしいが、例えカード名が違ってもワールド・エンチャントであるなら線上に1枚しか存在できない、というものだ。そのワールド・エンチャントの中で数少ない実績のあるカードがこの"大地の刃"だ。"土地税"とのコンボでザ・ガンと呼ばれるデッキを生み出したが、残念なことに"土地税"が禁止カードになるとその役目を終えてしまったよ。
(X)(X)(青)
ソーサリー
カードをX枚捨てる。その後これにより捨てられたカード1枚につき、あなたの墓地にあるカードを1枚あなたの手札に戻す。回想を追放する。
クロニクル発売当初、1枚制限カードという扱いで登場した墓地回収ソーサリーだ。レジェンドではレアだったがアンコモン相当に格下げされ再録された。当時タイプ1と呼ばれた、アルファから最新セットまで使用可能なレギュレーションだと、"Black Lotus"や"Time Walk"が使いまわされる、という懸念から1枚制限だったようだが、今のスタンダードであるタイプ2でもそのまま制限カードとされた。青いデッキを組む時は、折角の1枚制限カードだから、という理由でよく使っていたよ。
"フェルドンの杖"
アーティファクト
(T),フェルドンの杖を追放する:あなたの墓地をあなたのライブラリーに加えて切り直す。
1枚制限カードといえば、アーティファクト専門セットであるアンティキティーから来た"フェルドンの杖"も忘れてはならないね。ライブラリーアウトを防ぐ効果しかないのに何故、と不思議だったが、もしかしたらあまりにデュエルが長引くのを予防するためだったのかもしれんね。ターボ・ステイシスのミラーマッチでは一発逆転のフィニッシャーとしても活躍できる、軽くて便利な1枚だ。
(0)
アーティファクト
(T),トーモッドの墓所を生け贄に捧げる:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーの墓地のカードをすべて追放する。
そんな"フェルドンの杖"に対して効果的な妨害カードがこの"トーモッドの墓所"だ。ザ・ダークらしい暗鬱なイラストのカードだが、1枚残らず墓地を掃除するという効果は劇的だ。この頃は墓地利用に着目したカードが少なかったせいか、こんな低コストかつ無色でパワフルな効果をもってしまっている。果たして時のらせんにタイムシフトしてからのほうが活躍したようだね。
(3)
アーティファクト
クリーチャーを1体、生け贄に捧げる:あなたのマナ・プールに(2)を加える。
無限マナのお供、"アシュノッドの供犠台"はコンボ好きにはたまらない1枚だろうね。アーティファクトが主題のアンティキティーらしく無色マナしか出さないが、実に人気のあるカードだった。新セットが出て仲間とカード批評をしていると、「○○と"アシュノッドの供犠台"があればコンボだよね」と誰かしらが口にしたものさ。このカードを使ったトーナメントレベルに達したデッキは少なかったが、それでもいくつかのコンボデッキは結果を残した。
“ウルザの鉱山""ウルザの魔力炉""ウルザの塔"
ウルザの鉱山
土地 ウルザの鉱山
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。あなたが”ウルザの魔力炉”と”ウルザの塔”をコントロールしている場合、代わりにあなたのマナ・プールに(2)を加える。
ウルザの魔力炉
土地 ウルザの魔力炉
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。あなたが”ウルザの鉱山”と”ウルザの塔”をコントロールしている場合、代わりにあなたのマナ・プールに(2)を加える。
ウルザの塔
土地 ウルザの塔
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。あなたが”ウルザの鉱山”と”ウルザの魔力炉”をコントロールしている場合、代わりにあなたのマナ・プールに(3)を加える。
3種類そろうと7マナを生み出すこの土地は、活躍したカード、という括りでいうと、こいつらは実はノー、なんだがね。こいつはアンティキティーからクロニクルに再録されていた当時は、、まったく実績を残せていない。"アシュノッドの供犠台"以上のファンデッキ用カードだった。時を超え第8版で再録され、ミラディン期にウルザトロンのキーカードとして活躍することになる。
伝説のクリーチャー エルダードラゴン
飛行
あなたのアップキープの開始時に、あなたが(青)(黒)(赤)を支払わないかぎり、ニコル・ボーラスを生け贄に捧げる。
ニコル・ボーラスが対戦相手にダメージを与えるたび、そのプレイヤーは自分の手札を捨てる。
7/7
5体のエルダー・ドラゴン・レジェンドはおろか、クロニクルのマルチカラーカードの中で唯一活躍したのが、この"ニコル・ボーラス"だ。後にプレインズウォーカーに出世を果たし、マジック界の悪役としていまだに人気のあるカードだ。マナ・コストも維持コストも強烈だが、ダメージが通ったら全手札破壊と効果の派手さも負けていない。当然レジェンドが出身だが、普段は墓地からやってくるため墓地出身といえなくもないかな。まあ、"真鍮の都"をもってしても、まともにキャストや維持をしようとは思えなかったね。
残念だった多色カードたち
この"ニコル・ボーラス"以外にも、レジェンドから多くの多色クリーチャーが再録されたのだが、そいつらが箸にも棒にも掛からぬ連中で困ったものだったよ。もっとも、弱い伝説のクリーチャーだけを選りすぐって再録したわけではなく、レジェンドの伝説のクリーチャー全てがかなり厳しい性能だったわけだがね。自分のコントロールする土地枚数をパワー、タフネスにする"黒き剣のダッコン"や、タップだけでクリーチャーを奪える"魂の歌姫ルビニア"は実績は残していないもののいくらか人気があったかな。
アラビアン・ナイトのような古いセットを手に入れることが出来なかった私は、古いカードに強い憧れをいだいていたものさ。クロニクルはそんな憧れを少し満たしてくれた良いセットだったと思う。時のらせんのタイムシフトも似たような意味合いがあっただろう。古いカードは今のカードからは考えられないほど弱かったり、あるいは逆に強すぎたりするわけだが、それもマジックの歴史だからね。そうした過去を知り、興味を持てばマジックはもっと魅力的なものになるんじゃないかな。