スタンダード・リーガルのセット
日本でマジックが徐々に普及し始めたころの話だ。アイスエイジが登場したころは、私の周辺でもたまにスタンダードの大会が実施されるようになっていてね。ミラージュ発売時にはその数はもっと増えてきた。私は地方に住んでいたが、ちょっと足をのばせばどこかしらで大会を見つけることができたよ。
今思うと、トーナメントプレーヤーを取り巻く環境が少しずつ整備されていく流れを目の当たりにしていたんだね。しかし、それに伴って今では考えられないような環境の変化にも出くわしたんだ。
ミラージュブロック発売前後では、スタンダード・・・当時はタイプ2と呼んでいたが、そのレギュレーションに混乱があった時期だったともいえる。当時は基本セット1つと、発売時期の新しい順で2つまでのエキスパンションが使用可能とされていた。つまり、ミラージュ+アライアンス+第5版という環境が誕生した。
ブロック制の導入
ところが、ウェザーライト発売後にこれが覆った。使用可能セットにブロックの概念が導入され、発売時期の新しい順で2つまでのブロック+基本セット1つというくくりに変わった。当時はアイスエイジブロックという考え方が普及していなかったが、発表によればこうだ。1997年7月以降のスタンダード・リーガルなカードセットはアイスエイジ、ホームランド、アライアンス、ミラージュ、ビジョンズ、ウェザーライト、第5版となった。
ホームランドはアイスエイジと関係なかったが、ブロックの概念登場に伴い無理やりアイスエイジブロックに編入されてしまったんだね。これがのちのコールドスナップ発売によって覆った時の驚き、きっと当時を体験した我々にしか分からんだろうね。コールドスナップは発売が2006年、まさに10年越しの大事件だったよ。
ミラージュの発売が1996年の10月なので、1年もたたないうちに同じレギュレーションで使えなくなっていた、アイスエイジやアライアンスが復活してしまった。第4版から第5版への切り替えでは、アイスエイジのパワーカードはおおむね再録されてたが、アライアンスからは全く再録がなかった。しかもこの環境がスタンダード・リーガルだった時期は、次のテンペスト発売までのおよそ3ヶ月だけだったんだ。
影響の大きかったアイツ
プレーヤーたちは悲喜こもごもだったね。第4版から第5版への変遷で最大の影響力を持ったのは、やはり"剣を鋤に"がなくなったことだったろう。もちろん"稲妻"や"ミシュラの工廠"といったカードの退場も影響があったが、"稲妻"の穴は"火葬"が頑張っていたし、"ミシュラの工廠"に至っては色は関係なく影響を受けていた。だから白のクリーチャー除去機能がそっくり失われた"剣を鋤に"の消失は、とても深刻な影響があったといえるんだ。
剣を鍬に/Swords to Plowshares
(白)
インスタント
クリーチャー1体を対象とし、それを追放する。それのコントローラーは、そのパワーに等しい点数のライフを得る。
そんな中、アイスエイジブロックがまるごと復活してしまった。同時にアイスエイジに収録されていた"剣を鋤に"も復活したからね。白使いは大喜びだ。アライアンスも復活していたから、当然のように『カウンター・ポスト』が復活することとなったよ。しかも"ジェラードの知恵"や"沈黙のオーラ"といった低速の白いデッキに迎合したカードが多かったからね。あの3か月間はマジック史上でもまれに見るような白い夏だったんじゃないかな。
"剣を鋤に"が落ちたとき、白使いは来るべき日がついに来た、と嘆いたものさ。たった1マナでほとんどのクリーチャーを追放、デメリットはコントローラーのライフ回復だけ・・・しかもインスタントだ。アイスエイジの頃から考えると、カードパワーの水準はすごく上がってるのに、再録されることもない。当然、強すぎて環境に与える影響が大きいからだ。
じゃあ、代わりを探なくては!
あの頃、我々は"剣を鋤に"の後釜探しに躍起になっていたよ。ミラージュの"死後の生命"はインスタントだが、3マナもかかる上にトークンまで与えてしまう。"平和な心"ではシステム系クリーチャーに対しては無力だ。ウェザーライトには"関税"なんてカードもあったが、これも白ウィニーではデメリットが大きく、コントロールでは後半無力という問題があった。
"関税/Tariff"
(1)(白)
ソーサリー
各プレイヤーは、自分が点数で見たマナ・コストが最も高い自分がコントロールするクリーチャー1体のマナ・コストを支払わないかぎり、そのクリーチャーを生け贄に捧げる。プレイヤーがコストが最も高いクリーチャーを2体以上コントロールしている場合、そのプレイヤーはどちらか1体を選ぶ。
しかし、本当に探さなくてはいけなかったのは、抜けた"剣を鋤に"の穴埋めカードなんかじゃなかったんだ。その"剣を鋤に"のなくなった新しい環境で活躍できるカードが何か、どんなデッキが新たに台頭するかを考えるべきだった。しかし、当時の未熟な私にはその着眼点を持つことができなかったんだ。
アイスエイジ復活時には、たまたま白が優遇されていたから『カウンターポスト』が再興したが、でも今考えればもっと違ったデッキをぶつけてみるという選択肢はあったろうね。いつでもその時でしか成立し得ないデッキというのがあって、セットが加わる、抜けるのタイミングではそうした楽しみを体験することが、マジックの醍醐味なんだろうと思うよ。
復活はいつ決まったのか
ちなみにウェザーライトには対『カウンターポスト』用のカードである"マナの網"というカードがあった。おそらく、アイスエイジブロックのスタンダード復活は、ウェザーライトの印刷前には決まっていたんじゃないかな、と思っているよ。
マナの網/Mana Web
(3)
アーティファクト
対戦相手がコントロールする土地がマナを引き出す目的でタップされるたび、そのプレイヤーがコントロールする土地のうち、その土地が生み出すことのできるマナと同じタイプのマナを引き出せる土地をすべてタップする。
"平地""島""Kjeldoran Outpost""アダーカー荒原"がある状態で、メインフェイズに"アダーカー荒原"からマナを出すと、これら全てがタップされてしまう。相手のターンに"対抗呪文"を打つと、"Kjeldoran Outpost"でトークンを出すかをその場で判断しなくてはならなくなる。地味なカードだが、『カウンターポスト』対策にサイドボードへ忍ばせていたものさ。
失敗した後釜探し
他にも"アーナム・ジン"が抜けたときに"イラクサの牙のジン"を使ってみたり、"セラの天使"の代わりに"メリース・スピリット"を使ってみたりと、色々な試行錯誤をして失敗を経験した時代だったんだ。そんな中、勝ったのは新環境にマッチしたデッキたちだった。過去の栄光を引きずり、2級品で我慢しようとする私は敗た。新しく生み出されたデッキの面々は、当然その環境での1級品ばかりだった。
イラクサの牙のジン/Nettletooth Djinn
(3)(緑)
クリーチャー ジン
あなたのアップキープの開始時に、イラクサの牙のジンはあなたに1点のダメージを与える。
4/4
メリース・スピリット/Melesse Spirit
(3)(白)(白)
クリーチャー 天使 スピリット
飛行、プロテクション(黒)
3/3
次のテンペストでは、また大きな環境の変化が訪れる。手札が少ないと有利、という当時では考えられない環境がもたらされたんだ。2度目の"剣を鋤に"との決別は、私を大きく成長させてくれた。そう、受け入れろ!と気づいたんだ。マジックは教えてくれる。それは人生でも同じだ、とね。
新しいカード達は魅力的だけど、何度も自分を勝たせてくれたあのデッキ、あのカードが名残惜しい、だなんて言っていては時代に取り残されちまうってことさ。環境を受け入れる度量をもって、この先のマジックも人生も楽しんでいきたいものだね。