新セット発売直後
今日の話は、アライアンスについての話をよく思い出してから聞いてもらった方がいいだろう。さて、第4版のトレードで少しばかりの教訓を得た私は、トレードに対し少し慎重になっていた。相手の言われるがままにトレードするのではなく、自分が本当に必要としているカードを交換すると決めていた。
今からするのは、ミラージュが発売された直後のある大会に参加した時の話だ。当時は日本語版に先立って英語版が発売されていた。私はまだ中学生で、英語を読むのに苦労していたね。あの稀代の強力セットたるアライアンスに続く、新セットの発売にはとても興奮してね。だから、日本語の発売まで待っていられなかったんだ。ミラージュのコレクションは少しだけだったが、買ったばかりのバインダーに並べて得意気だったものさ。
私が会場で自分のバインダーを眺めていると、鋭い目つきをした見知らぬ男が声をかけてきた。黒っぽい服装で、大学生くらいの風貌だ。その男がトレードをしよう、というのだ。その頃カウンターポストを作りたかった私は、彼の申し出を受けることにした。もちろん、言われるがままのトレードはしない、と心に誓った上でだ。彼はミラージュのカードに強い興味を示していた。ある青いカードを指し、このカードは出せるか、と尋ねてきたんだ。
まずはただならぬ雰囲気のカードから
"不思議のバザール/Bazaar of Wonders"
(3)(青)(青)
ワールド・エンチャント
不思議のバザールが戦場に出たとき、すべての墓地にあるすべてのカードを追放する。
プレイヤーが呪文を唱えるたび、それと同じ名前を持つカードがいずれかの墓地にあるか同じ名前を持つトークンでないパーマネントが戦場にある場合、それを打ち消す。
私「"Bazaar of Wonders"かぁ。これって明らかにレアだよね」
男「そうだね。何か欲しいカードはあるかい」
私「僕は今、カウンターポストを作りたいんだけど、ちっともカードが足りないんだ」
男「ああ、そうすると・・・そうだな。"Exile"なんてどうだい?」
私「"Exile"もいいけど、やっぱり"Kjeldoran Outpost"が欲しいな」
男「う、"Kjeldoran Outpost"か・・・ちょっと高いなぁ」
私「なんかこのカード、すごい斬新なロックデッキとか作れそうな感じだし」
男「そうだな、仕方ないか。分かった。"Kjeldoran Outpost"を出そう」
私「うん、ありがとう。他にも欲しいカードがある?」
漂白したいデュエリスト垂涎の一枚!
"天界の曙光/Celestial Dawn"
(1)(白)(白)
エンチャント
あなたがコントロールする土地は平地である。
あなたがオーナーである、土地ではなく戦場に出ていないカードと、あなたがコントロールする呪文と、あなたがコントロールする土地でないパーマネントは白である。
あなたは、白マナを好きな色のマナであるかのように支払ってもよい。あなたは他のマナを無色マナであるかのようにのみ支払ってもよい。
男「そうだな、この"Celestial Dawn"は興味があるね」
私「あぁ、それも何かすごそうだよね」
男「白単で色んなことができそうだからね。面白いデッキが作れそうだよ」
私「友達も欲しいって言ってたんだ。でも、あいつらいいカード持ってないから」
男「なるほど、早くも人気カードってわけか」
私「そうなんだ。だから、これとなら"Thawing Glaciers"でトレードしたいな」
男「確かに"Thawing Glaciers"と"Celestial Dawn"なら、きっと等価だろう」
私「じゃ、OKだね」
男「ああ」
美麗なイラストにはただならぬ魅力が!
"生命のサイクル/Cycle of Life"
(1)(緑)(緑)
エンチャント
生命のサイクルをオーナーの手札に戻す:このターンにあなたが唱えたクリーチャー1体を対象とする。それはあなたの次のアップキープの開始時まで基本のパワーとタフネスが0/1である。あなたの次のアップキープの開始時に、そのクリーチャーの上に+1/+1カウンターを1個置く。
男「この"Cycle of Life"は、イラストがいいよね」
私「うん、キレイだよね。+1/+1カウンターがどんどん増えるってすごそうだし」
男「これは出せるかい?」
私「うん、いいよ。でも、それに見合うカードって何かな・・・」
男「この"Lodestone Bauble"はどうだい?カウンターポストのサイドボードで良く見かけるよ」
私「あ、知ってる!ちょっと地味だけど、いいカードだよね」
男「これは持っているかい?」
私「1枚もないよ。確かに必要だね」
男「よし、交換しよう」
私「ありがとう」
サイドボードで見たことはあった
"混沌界/Chaosphere"
(2)(赤)
ワールド・エンチャント
飛行を持つクリーチャーは、飛行を持つクリーチャーのみブロックできる。
飛行を持たないクリーチャーは、到達を持つ。
私「あ、イラストならこの"Chaosphere"もインパクトあるよ」
男「お、確かにこれはちょっと欲しいな」
私「これも"Bazaar of Wonders"と同じエンチャント(ワールド)だね」
※エンチャント(ワールド)は当時のカードタイプ。
男「確かにエンチャント(ワールド)らしい、なかなかぶっ飛んだ効果だね」
私「これも出せるよ。でも・・・」
男「ん、どうしたの」
私「あとレアで欲しいのは"Helm of Obedience"くらいなんだよね」
男「うぉ、"Helm of Obedience"だとさすがにきつい・・・」
私「じゃ、あとは"Force of Will"が足りないんだ」
男「"Force of Will"なら、アンコモンだからいいよ」
私「レアとアンコモンのトレードだから、2枚出せる?」
男「うーん、まあいいだろう」
万能サーチ!しかも5枚!ただちょっとチンタラし過ぎた!
"マンガラの秘本/Mangara's Tome"
(5)
アーティファクト
マンガラの秘本が戦場に出たとき、あなたのライブラリーからカードを5枚探し、それらを裏向きのまま束にして追放し、その束を切り直す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
(2):このターン、次にあなたがカードを引く代わりに、マンガラの秘本によって追放された束の一番上のカードを1枚あなたの手札に加える。
男「ん、なんだこのカード?初めて見た」
私「あ、それは・・・」
男「え、これ1枚で"Demonic Tutor"5枚分の効果!すげえ!」
私「それ、後で使おうと思ってたんだよね」
男「そうなのか・・・残念。確かに強そうだからなぁ」
私「ごめんね」
男「あ、さっきの"Helm of Obedience"とならどうだい?」
私「"Helm of Obedience"かあ・・・それならいいかな」
男「無理を言ってすまないね」
私「いいんだ。お蔭でだいぶデッキが出来上がってきたよ」
「え?レアなの?」と言いたくなるカード達
男「カウンターポストをやるなら、この"Dissipate"は必要なんじゃないかな」
私「あ、確かに・・・まだ1枚しかないや。アンコモンだよね?」
男「そう。もし必要なら3枚出せるけど」
私「え、いいの?ミラージュのカードなのに?」
男「たまたま引きまくって、これだけ余ってるんだよ」
私「そうなんだ。でも、僕のバインダーに見合いそうなカードがないなあ」
男「カスレアと1対1ならどうだい?」
私「それは助かる!」
男「じゃ、3枚カスレアを選ぶね」
"ブラッシュワグ/Brushwagg"
(1)(緑)(緑)
クリーチャー — ブラッシュワグ
ブラッシュワグがブロックするかブロックされた状態になるたび、それはターン終了時まで-2/+2の修整を受ける。
3/2
"抜目ないガーゴイル/Leering Gargoyle"
(1)(白)(青)
クリーチャー ガーゴイル
飛行
(T):抜目ないガーゴイルはターン終了時まで-2/+2の修整を受けるとともに飛行を失う。
2/2
"ねじれのワーム/Warping Wurm"
(2)(緑)(青)
クリーチャー — ワーム
フェイジング
あなたのアップキープの開始時に、あなたが(2)(青)(緑)を支払わないかぎり、ねじれのワームはフェイズ・アウトする。
ねじれのワームがフェイズ・インしたとき、その上に+1/+1カウンターを1個置く。
1/1
男「ミラージュのコンプリートに、こいつらが必要なんだ」
私「やっぱり・・・」
男「ん、どうしたの?」
私「いや、やっぱりこいつら、レアなんだね」
男「ああ、残念だけど、ね」
私「・・・信じたくなかったけど・・・。残念だよ」
男「アンコモンと1対1ですまないが、トレードしていいかな」
私「もちろん。お礼を言うのはこっちだよ」
男「お蔭でコレクションが充実したよ」
私「早くコンプリートできるといいね」
まだまだある、レアらしくないレア達
私「そうだ、さっき"Excile"が出せるって言ってたよね」
男「あ、うん。そうだけど」
私「カスレア何枚か出すから、"Exile"出せない?」
男「ん、そうだな、じゃぁ・・・これでどう?」
"テリムトーの勅令/Telim'Tor's Edict"
(赤)
インスタント
あなたがオーナーであるか、あなたがコントロールするパーマネント1つを対象とし、それを追放する。
次のターンのアップキープの開始時に、カードを1枚引く。
"岩バジリスク/Rock Basilisk"
(4)(赤)(緑)
クリーチャー バジリスク
岩バジリスクが壁でないクリーチャーをブロックするか、壁でないクリーチャーによってブロックされた状態になるたび、戦闘終了時にそのクリーチャーを破壊する。
4/5
"エンバーワイルドのカリフ/Emberwilde Caliph"
(2)(青)(赤)
クリーチャー ジン
飛行、トランプル
エンバーワイルドのカリフは可能なら毎ターン攻撃する。
エンバーワイルドのカリフがダメージを与えるたび、あなたは同じ点数のライフを失う。
4/4
"刃の振り子/Razor Pendulum"
(4)
アーティファクト
各プレイヤーの終了ステップの開始時に、そのプレイヤーのライフが5点以下である場合、刃の振り子はそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
"テフェリーの島/Teferi's Isle"
伝説の土地
フェイジング
テフェリーの島はタップ状態で戦場に出る。
(T):あなたのマナ・プールに(青)(青)を加える。
私「うーん、さすがに5枚はちょっと」
男「じゃ、"Exile"2枚だすよ」
私「え、それなら全然OKだよ」
男「今日はありがとう。充実したトレードができたよ」
私「こちらこそ。またトレードしようね」
男「ああ、ぜひ」
トレードを振り返って
インターネットの情報もまだまだ未整備な頃には、こんなの良くある光景だった。別に私は意図してシャーク行為を行なったわけではないがね。明らかにいお互い納得していたし、このちょっと後に判明するカード価格でも"不思議のバザール/Bazaar of Wonders"や"天界の曙光/Celestial Dawn"はかなり高額だった。しばらくの間は、ね。一見派手な効果で、実はカスレア、という見事なカードデザインにみんなしてやられたというわけだ。
新セットが出た直後は、デッキビルダーと呼ばれる人種が最も活躍する時期だ。一見、箸にも棒にもかからなそうなカーたちを、見事なアイデアで一流カードに変える。そういった作業は当時から連綿と続いているね。だから、評価が確定する前のトレードはとても難しい。
一方、"ブラッシュワグ/Brushwagg"のような明らかなカスレアは、今ではほとんど見られなくなった。現在ではカスレアでも、もう少しレアらしい能力だ。当時はエクスパンション・シンボルが黒一色だったからね。最初見たとき、このパックにはレアが入っていない、と首をかしげたものだ。ミラージュではそんなの日常茶飯事だった。コモンやアンコモンの水準が高かったから、レア狙いでなければ良いセットなんだがね。
ミラージュの売れ行きはやはり悪かったのか、次のビジョンズではレアのカードパワーがかなり高くなった。アライアンスほどではなかったが、いくつかの新しいデッキを生み出し、後の環境に対し長く影響を与えたカードも多い。この辺りはいずれ、弟が詳しく話してくれるだろうさ。
コメント
コメント一覧 (2)
当時の直の話は中々聞けませんから。
トレードの話ですが
ネットが一般的になった昨今でさえ評価がガラッと変わるカードもありますし。
自分も損得色々あったなー。と
ネットの情報がほぼない状態でのトレードは、今では味わえないスリルと楽しみがありました。ちなみにミラージュには、アメリカ版とベルギー版があり、印刷の質が大きく違っていました。アメリカ版はザラザラしていて色が濃いので、ノースリーブだと裏から見ても判別できるレベルでした。インクの匂いも濃い目で、マニアにはたまらないパックでしたね。